メモ

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マグ、みぞれ 公園のベンチに座っている。

時刻は夕方の4時、光度の高いオレンジと紫、少しのピンクに包まれる。

気温、なし。

 

みぞれ、ベンチの足元にメモ切れを見つけて拾い読み上げる。

 

みぞれ「今日のご飯は クリームしちう でした。

クリームしちう は カレエ と原材料がいっしょなのに、

完成すると全くちがう色になるのがとってもおもしろいと思います。

なので、わたしは、クリームしちう が大好きです。」

 

マグ「なあにそれ」

みぞれ「おばあちゃんの遺言」

マグ「みぞのおばあちゃん、病気?」

みぞれ「さいごはね」

マグ「・・・」

みぞれ「・・・」

マグ「ごめん」

みぞれ「なにが?」

マグ「うちって、そういうとこある」

みぞれ「?」

マグ「気をつける」

みぞれ「?うん。?」

 

みぞれ、メモ用紙を四つに折りたたんでポシェットにしまう。

 

マグ「いいの?」

みぞれ「なにが?」

マグ「・・・」

みぞれ「大丈夫、家には入れないから」

マグ「ごめん」

みぞれ「いいよ」

マグ「・・・」

みぞれ「帰るかなぁ」

 

マグ、バツの悪そうな顔をして自分の足元をみている。

 

みぞれ「マグは頭がとってもいいから、わたしよりも何個も先のことを考えている。先を走ってきて、それでいつも何か(あんまりよくないこと)を発見しては、悲しいような怒ったような顔をして、わたしに謝ってくる。わたしは、マグがなんで謝っているのか、だいたいは、わからない。だけど、ゆるす。マグは許して欲しそうだから、ゆるす。

生きることにも速度があるとすれば、わたしはマグよりとっても遅く生活を送っていることになる。そして生きていくことにゴールがあるとすれば、速度が早ければ早いほど・・・。なんだか気がつきそうだけど、そこまで考えを遠くまで行かせると、現実の自分から伸びてる命づな、みたいなものがピーンと張ってしまうので、わたしは仕方なく戻ってくる。仕方なく、ではあるけども、なんとなく、このつなの先はいい感じがしないから切ってまでは行かないし、つなを伸ばそうとも思わない。それで、いいかな。」

 

みぞれ「ラップって知ってる?」

マグ「うん、あの〜、うん、知ってる」

みぞれ「やりたいんだな」

マグ「いいね」

みぞれ「マグ、作ってよ」

マグ「ええ〜〜今?」

みぞれ「今度」

マグ「う〜ん、わかった調べておく」

みぞれ「わ〜い。帰るかあ」

マグ「うん」

みぞれ「へんな色」

マグ「うん」

 

二人はベンチから立ち上がる。

マグはポーチから小さなスプレーを出して、二人のお尻と、二人が座っていたベンチにふりかける。

 

マグ「うん」

 

二人、まだまだ明るい公園を後にする。

 

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